僕もその一人だったのかもしれないが、僕には入国しなければならない別の理由もあった。それは当時僕にはボゴタとカルタヘナにコロンビア人の友人がいたためである。僕は彼らに会うために入国したのだった。
ビクビクしながら初めてコロンビアに入国したときは、比較的治安がよいとされるカルタヘナだった。正直なところカルタヘナではあまり危険な雰囲気を感じなかったが、首都のボゴタに入ったときはその雰囲気に圧倒させられた。
長い旅行をしている旅行者は、町の雰囲気でその町が危険かどうかを察知する能力が自然と身に付いてくる。ボコタはまさに危険な雰囲気が充満していたような気がする。ボゴタに入った日は雨が降っていたので余計にそう感じたのかもしれないが、どこか重苦しく今にも強盗に取り囲まれてもおかしくない状況だと感じたので、僕は早々に宿を確保し身軽になることにした。
街を行く人々もどこか警戒心を持っており、それに大都会特有の冷たさが重なり合い、この町がよそ者には優しくない町であることを悟らされたのを覚えている。さらに金持ちの家は家の四方を高い壁と有刺鉄線が囲み、何か刑務所のような雰囲気すら漂わせていた。もちろん門のところには警備員というより武装した兵士といったほうがよい門番が、2〜3人で警備にあたっていた。
僕はボゴタに住んでいる人の何人かに、ボゴタは本当に危険な町か尋ねた。すると殆どの人の答えは「ノー」で、「ボニート(美しいところ)」という答えが返ってきた。地元の人はこれが普通だと感じているのだろう。旅行者が次々と強盗に遭っているのだから、安全なわけがないのである。
当然、旅行者も自衛の手段を行使して街を歩いている。現地で知り合った日本人は、5分おきに奇声をあげながら空手のまねをして街を歩いていた(本当だぞ)。さらに護衛のための鉄の棒を隠し持っていた。僕も大きなマイナスドライバーを購入し、万一のときのために携帯していた。