しかし日中でも人通りが少なくなってきたら要注意である。それは市街戦やテロの前触れになっていることが多く、急いで宿に戻ったほうがよい。僕はエルサルバドル滞在中に散発的な戦闘に出くわしたことがある。その時もまず人通りがまばらになったのである。
どうやらゲリラ側が一般市民を巻き添えにしたくないので、戦闘の開始日時と場所を一般市民に知らせているようである。その情報が市民の間で口伝えで広まり、民間人の戦死者を最小限にとどめているようである。
ある時、僕がサンサルバドルの街中を歩いていると、いきなり前方から乾いた爆音が鳴り響いた。すると僕の周りを歩いていた数名の人々が、一目散に近くにある商店に逃げ込んだ。どうやら戦闘が始まったようである。
僕もとっさに近くにあったファストフード店(マクドナルドだったと思う)に逃げ込み、戦闘がやむのを待った。僕は店員に「いつもこうなのか」と尋ねてみると、店員は「ときどき」と答えた。人々も市街戦に慣れている様子で、そんなにパニックにはならなかった。
それにしても初めて生で聞いた銃声は、未だに僕の耳にこびりついてはなれない。あの乾ききった爆音は人々に恐怖を与えるのに十分で、最新の映画館で見たどの戦争映画の戦闘シーンよりも恐怖感があった(戦場にいるのだから当たり前と言えば当たり前なのだが)。
銃声が鳴りやんでしばらくすると、街には再び人通りが回復した。恐る恐る戦闘現場に向かうと、数体の死体が道路に転がっており、政府軍が死体をトラックに積んでいるところだった。その横を集団下校の小学生の列がすり抜けていった。この子供たちはこんな光景を目の当たりにして、どんな気持ちになっているのだろうか。
エルサルバドルに入国するまでは、僕もこんなにまとめて死体を見たことが無かった。はじめはすごい嫌悪感をおぼえていたが、そのうち慣れてしまってこの国の一風景としか感じなくなっていた。明らかに僕の神経も麻痺してしまっていた。
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